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満ち足りる、は腹八分目 – 小アルカナ カップ 9

『カップ 9』のカードには、堂々と腕を組み正面を向いて座る男性が描かれています。表情はとても満足げで、今日の主役!といった雰囲気です。男性の背後には9つのカップが飾られており、カード全面も黄色で何となくおめでたいイメージが湧いてきます。

人間的に成熟している、というのはどんな状態でしょうか。皆々から「できた人ねぇ」と褒められるのはどういう状態でしょうか。それぞれにさまざまなイメージが広がると思いますが、このカードが示すのはまさに「人間的に成熟している状態」です。それも、カップのスートなので感情的に成熟している状態を表します。

私はこのカードを見るとき、カップの中身はどれくらい入っているのだろう?と想像します。すべてのカップがなみなみに注がれた状態、一部だけ満杯、どれも半分くらい、実はどれも空……どの可能性も否定はできません。たくさんのカップはたくさんの「感情の可能性」を示しているとして、そうするとすべてが満たされているかどうかというよりも「それぞれいろいろな液体を入れられる/混ぜられる状態」をイメージします。

カップは水のエレメントで、その性質は「混ざり合う/響き合う」ものです。すべてのカップがなみなみに注がれていては混ざり合う余地がないですし、響き合うと水面が揺れてこぼれてしまうかもしれません。

それに、カップの中身がすべて同じ種類の液体でも不都合が出そうです。例えば水が入っていたとして、そこに油を注ぐと混ざり合いません。いろいろな液体と混ざり合い響き合うためには、それぞれのカップにいろいろな液体を入れておいた方が安心です。

タロットの世界には、1から要素が変化しつつ進み8で飽和するという見方もあります。その続きで、飽和した要素から余分なものを削ぎ落とし、大切なもの・必要なものだけを残して「完成」するのが9、という解釈をしたとき、「完成」というものには必ず余裕が伴うと言えそうです。

『カップ 9』を感情・愛情・絆・感性などを健全に育める人間性の完成とした場合、そこにはたくさんのバッファがイメージできます。要は、「いろいろなものと混ざるための用意がある」ということです。『カップ 9』は、自分とは性質の違う液体(感性)を持つ人、備えている液体の量や温度が違う人とも混ざり合い響き合えるよう、余裕と用意を携えているように思います。

似た者同士で集まれば、混ざり合うこと響き合うことは容易です。しかし、現実には似た者同士だけで生きていくことはなかなか難しいでしょう。ある程度は混ざりやすさ響きやすさでまとまるにしても、枠が広がれば広がるほどにさまざまな“液体”と出会います。そこで『カップ 9』のように余裕と用意があれば、性質の違う“液体”にも落ち着いて接することができますし、うまくいけば共存も可能です。何なら、間を取り持てる媒介のような“液体”を加えれば混ざり合い響き合うこともできるかもしれません。

相性のよいもの同士のみでコミュニティを形成するだけでなく、異質なものを排除する姿勢だと、カップの性質からは遠のいていきます。『カップ 9』が表現する「完成」は、そのような形ではおそらくないでしょう。人間の感性におけるさまざまな可能性、反応、変化を受け入れるキャパシティが、このカードの示す状態にはあるのかもしれません。

記事を書いた人

小濱香織(ももねこ)OBAMA KAORI

文章を書いたりコードを書いたり喋ったりする人。 このコラムでは主に占い(タロット・西洋占星術)の記事を書いています。 カメラと園芸とアクアリウムと自転車とバスケ観戦が好き。 とにかく楽しく生きています。

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