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足下しか見えない – 小アルカナ ワンド 10

『ワンド 10』はたくさんの荷物に押しつぶされそうになっている人物が描かれています。両手いっぱいに棒を抱え、顔は下を向いて、おそらく前は一切見えていません。ただただひたすら、前へ前へと進んでいるように見えます。

タロット 小アルカナ ワンド 10

おそらく多くの人が経験していると思いますが、限界ギリギリまで身体に鞭を打って動いていると、どんどん視界が狭くなっていきます。とんでもなく忙しかったり、さまざまな要因に囲まれていたり、とにかくひどく疲れていたりすると、イライラする、乱暴になる、衝動的になる……など、いわゆるワンドの要素(本能・情熱・衝動)が悪い方に大きく働きやすくもなります。

この『ワンド 10』は、ワンドの要素が大きく大きく膨らんで膨らみきって(「8」の段階)、本来であれば不要な要素を削いで洗練させるはずが膨らみ続け(「9」の段階)、いよいよ過剰になって崩壊を迎えようとする段階と言えます。限界ギリギリで何とか形が保たれているイメージです。

そんな状態ですから、目の前の仕事、「棒を運ぶ」という動作にエネルギーを全振りせざるを得ません。冒頭にも書いたように、顔は下を向きおそらく足下しか見えていないでしょう。ごくごく限られた視界に縋りつくようにして足を動かし続ける姿は、外から見ていても少し辛い気持ちになるかもしれません。

私が会社勤めをしていた頃、いわゆる激務が続いていた時期がありました。徹夜は特に珍しくなく、「あの人、昨日と同じ服だね」と思っても、誰もわざわざ触れません。バリバリ働きたい人だけがそういう生活をしていたかと言えばそうでもなく、それなりにみんながそういった状況だったので、当然ながら限界を超えてしまう人もチラホラ出てきました。いわゆる「飛ぶ(会社に告げずに出社をやめ連絡を絶つこと)」人はあまりいませんでしたが、無断欠勤や短期間の音信不通、などは幾度か目にしました。

そういう行動に出る人たちが普段から素行が悪かったかといえばまったくそんなことはありません。むしろ真面目に働いている印象です。真面目で勤勉だからこそ、棒が8本、9本、10本……と重なって負担が大きくなりすぎるまで耐えてしまい、限界を迎えて崩壊してしまったのだと思います。

理想としては、上司に相談するといったステップを踏んでから休みたいところですが、そんなことを言っていられないくらいに負担を引き受けてしまった場合、そして耐えられなくなるまで頑張ってしまった場合、究極的に足下しか見えなくなり、思考も判断もすっ飛ばして無意識的に休養に突入してしまうことが、きっと人間にはあるのです。

そしてその後、彼ら彼女らはまた戻ってきました。え、辞めた方がいいんじゃないの……?と心配したりもしましたが、少しの休養ののち、戻ってきました。戻ってきた上、数年後の私が退職するタイミングでも元気に働き続けていました。

ワンドのスートは「本能・情熱・衝動」の他に「肉体」というキーワードも示します。『ワンド 10』で限界を迎えているのは「肉体」であり、心や精神ではないと解釈できます。肉体の限界は肉体を癒すことで回復し、回復した肉体はまた余裕を得て棒を担ぎに戻れるのです。

とはいえ実際の人間はそんなに単純ではなく、肉体の疲れと心の疲れ、精神の疲れは同時に発生することがほとんどかと思います。彼ら彼女らも、肉体だけでなく心や精神に大きな負担を抱えていたはずです。誰でもそうですが、しんどくなる前に休み、肉体はもちろん心と精神の疲れも観察し、どういったアプローチで自身のケアをするかを判断せねばなりません。自分だけでは難しい場合もあるので、周りの人たちに相談・協力を仰ぐことも大切です。

占いの場では『ワンド 10』が逆位置になったとき、その場のカードの並びも鑑みて、棒を全部投げ出して「やーめた!」でもいいんじゃない?と提案することがありますが、それはそれでアリだと思います。足もとしか見えず、視野がぎゅーっと狭くなってしまうと、本当は目の前にあるはずのいろいろな可能性・選択肢が見えなくなってしまいます。序盤で書いたように、イライラする、乱暴になる、衝動的になる……など、いわゆるワンドの要素(本能・情熱・衝動)が悪い方に大きく働いているかも……?と感じたときは、ギリギリの限界を迎える前にしっかり休んで、視野を保てるようにしたいですね。

記事を書いた人

DUCK WORKSDUCK WORKS

京都三条で活動するフリーランスのユニットです。デザイナーの髙野 るみ子、ライター・フロントエンドエンジニア・占い師の小濱 香織の2人で構成されています。

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