『ペンタクル キング』が、特にコンディションの悪い形で占いの場に出るとき、私の経験では多くの場面で、占いの主役であるお客さまが倦怠感や退屈感を抱えています。ペンタクルのスートが示す「物質・現実・成果」を手にし(場合によっては誰かから継承し)、大切なものを守ることが使命になっている状態、なおかつ「本当は能動的に動きたい=攻めたいのに守りに徹さねばならない」状態です。

これが『ペンタクル クイーン』であれば「守りたいのに守れていない」「守りに徹しすぎて過保護になっている」というような状態と言え、キングとは趣が変わります。
『ペンタクル キング』はキングであり男性の絵柄ですから、本来であれば能動的・積極的な性質を持つと解釈できます。けれども、このカードに描かれた人物はまったく動きそうにありません。服の柄と壁につたうブドウが一体化して見え、むしろがんじがらめになっているようにさえ見えます。「物質・現実・成果」に囲まれた結果、軽やかに動きづらくなってしまったのかもしれません。
物理的な豊かさを手に入れると、必然的に守るものが多くなります。空に近い財布なら落としてもある程度諦めがつきますが、お金やカードなどの貴重品で膨らんだ財布であれば諦めるという選択肢はなかなか出てこないでしょう。財布ひとつでもこうですから、もっともっと多くのモノが手もとにある彼の場合は尋常ではないプレッシャーを抱えていそうです。
『ペンタクル キング』は王様なので、富の中には「人民」も含まれます。彼ひとりで完結する豊かさではなく、民ひとりひとりの命や財産、ひいては国の未来なども手もとにあります。ということは、責任もかなり重いはずです。この責任を背負うことに夢中になっていられる間はまだいいかもしれませんが、それすらも当たり前になってしまったとき、何を目指して行動すればいいのかがわからなくなることもあるでしょう。キング故の「動きたい」という欲求がペンタクルの要素と結びついたとき、このカードに描かれた彼のような倦怠感・退屈感が生じるのは自然なことに思えます。
仕事で出会う人たちの中にも、時折『ペンタクル キング』のような人がいます。『ペンタクル キング』のよう、だけであればそんなに辛くないのかもしれませんが、人間はそんなに単純じゃありません。『ワンド キング』が同居していたり、『ソード キング』が相席していたりします。もちろん『カップ ペイジ』のこともあります。タイミングによってどの要素が強くなるかは人それぞれでしょうが、『ペンタクル キング』の重厚感をひっくり返すほどの衝動や、堅固さを緩ませるほどの情、せっかくの落ち着きを分解する知性が優勢に立ったとき、リスクを取ってでも変化を選びたくなるのかもしれません。