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常にアップデートを続ける – 小アルカナ ペンタクル 8

『ペンタクル 8』のカードには、街から少し離れた場所で一人ペンタクルに五芒星を刻む男性が描かれています。ペンタクルはひとつひとつ大きさや黒いフチ、五芒星の形がわずかずつ違い、同じものはありません。遠くには街が見え、人の暮らしがあるようです。

タロット 小アルカナ ペンタクル 8

私たちが仕事にしている「デザイン」というものには流行りがあります。その流行りというのも感覚的な部分だけでなく、機能的な部分が大きいです。世の中の大きな動きに乗って人々は暮らしており、その流れに沿う形でデザインは変化していきます。わかりやすいところで言えば、スマホの画面がどんどん大きく高解像度になるのに合わせ、基準となる画面の幅を大きくしたり、画像の解像度を上げたり、フォントサイズを上げたり、という具合です。世の中に対する地道な観察と地味な改良を日々重ねることがデザイナーの仕事の土台を支えています。

『ペンタクル 8』に描かれている男性は、おそらく職人だと思われます。ペンタクルを粛々と作り続け、おそらく背景に描かれている街に卸すのでしょう。ペンタクルはすべて微妙に細部が違い、同じものはありません。これもおそらくですが、どのペンタクルも商品として成り立つクオリティを担保しつつ、各案件によって微調整をしているのではないかと思います。もしくは、ああでもないこうでもないと、商品を改良すべく試作を重ねているのかもしれません。いずれにせよ、彼は職人としてまったく同じものばかりを作るのではなく、少しずつ微調整をしているように見えます。

このまま彼が熟練の職人として腕を振るい続けるのか、企画側やディレクション側に回って案件を回す立場になるのかはわかりませんが、まったく同じものばかりを頑なに作り続けず積極的に試し続ける姿勢は、クリエイティブに携わる誰もが意識すべきことだと思います。

この人物を「見習い」とする読み方も多々見かけます。ペンタクルひとつひとつの差異が未熟さゆえのバラつきである可能性を優先すると、確かにそのようにも見えます。もしそうだとしても、彼はペンタクルをきれいに並べ、ディスプレイしているようです。失敗した!と途中でやめたり廃棄した形跡は残っておらず(1枚だけ足もとに転がっているので、これは失敗作かもしれません)、すべてを成果として並べています。もしこの人物が見習いだとしても、一人で粛々と作業を続け、できあがったものを並べておける環境を与えられているのですから、まったくの初心者ではないでしょう。

与えられた要件を設計書に落とし込み、成果物として世の中に産み落とすのは、ただ技術があるだけでは難しいです。技術を活かすための視点、変化を厭わない勇気、どんどん新しいことを試す好奇心、案件に合わせて手法を選ぶ柔軟性、世の中を観察する目、人々の声を聴く耳……さまざまな要素が絡み合って、世の中の役に立つものができあがります。

「慣れているから」「ずっとこうしてきたから」という個人的な慣習や、「こういうときはこうするものだから」というアップデートされない思い込みは、せっかくの技術を曇らせてしまいます。『ペンタクル 8』に描かれた人物のように、差異を許容し見比べる姿勢は、私自身も忘れないようにしたいところです。

記事を書いた人

小濱香織(ももねこ)OBAMA KAORI

文章を書いたりコードを書いたり喋ったりする人。 このコラムでは主に占い(タロット・西洋占星術)の記事を書いています。 カメラと園芸とアクアリウムと自転車とバスケ観戦が好き。 とにかく楽しく生きています。

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