『ワンド ナイト』は、ワンドを掲げた騎士が猛る馬に乗っている姿が描かれています。勢いよく駆ける馬は前足を上げ、とても力強い様相です。背景は乾いた荒野、見晴らしのよい土地を臆することなくどんどん進んでいきます。騎士の衣服にはトカゲが描かれており、トカゲの再生能力から「ピンチに屈さず甦るエネルギー」もイメージできます。

ずいぶん前、知人から「趣味でバイクに乗る人は、前世で馬に乗っていたんだって」という話を聞いたことがあります。確かにバイクと馬は似ているところがあるかもしれません。また、最近私たちがスポーツバイク(自転車)を教わっている方との話で「スポーツバイクは獣の速さ」という言葉が出てきました。ペダルを踏みこめばグッと車輪が回転し、私たちが歩くよりもずっと速いスピードで進むことができます。それは決して無理な力を必要とせず、さながら獣が風を切って走るように軽やかです。
もう少し自転車の話をすると、ロードバイクとマウンテンバイクというものがあります。ロードバイクは舗装された道に適応した、スピード重視の自転車です。マウンテンバイクはオフロード(未舗装の道路)を走破する、力強い自転車です。
この『ワンド ナイト』はどちらかというとマウンテンバイクに近いように思います。ワンドの性質である「本能・情熱・衝動」をもって、オフロードをぐんぐん走る、勇猛なエネルギー。好奇心のままに、道なき道を肉体とそこに染みついた感覚で攻略していく、無邪気なエネルギー。私もタイヤが太く悪路に強い自転車で砂利道を走ることがありますが、言うなれば「脚のでっかいケモノに乗って大地を蹴る感覚」を味わえます。タイヤの細いロードバイクに乗っているときはスリップしないように緊張する場面でも、ファットバイクに乗っていれば平気です。「ガンガン走っても転ばない」という安心感が勇気に変わり、砂利道を怖がらず楽しむことができます。
『ワンド ナイト』は自身の能力と経験を基盤に、「怖がらずに楽しむ」ことができる人物なのだと思います。タロットの絵柄は特に楽しそうではないですが、凛とした表情で前を見据えるその姿はとても潔いです。迷いや躊躇はきっとないでしょう。前に進むことに迷いや躊躇がないならば、清々しく潔く突っ走っていけるでしょう。
私たちが自転車を教わっている方が、ある日のサイクリングを終えたあと、目をキラキラさせて「もう一度峠を越えてみようと思います」とおっしゃいました。その日は峠の入り口付近まで走ったのですが、どうやらそのコースが懐かしく、楽しく、ワクワクが甦って、心に情熱の火が灯るきっかけになったようです。その方は自転車歴40年超の大ベテランで、「若い頃に走っていたコースをもう一度」という気持ちになったのですね。トカゲのしっぽが再生するように、もしくは脱皮してまっさらな皮膚を露出するように、かつての喜びを新しい喜びとして追いかけることになったわけです。
その方は年齢的・ポジション的にはキングの方がお似合いですし、実際に先日までは「教えられることを今のうちに教えておきたい」というスタンスでいらっしゃったのですが、峠の話が出てからはまさにナイトの顔をされています。とにかく目がキラキラしていて、笑顔にハリが感じられ、妙にカッコいいたたずまいです。
人は、いくつになってもナイトの要素を内包し続けるのだろうと思います。もちろんペイジも、クイーンも内包したまま、人生を重ねていくのでしょう。年齢やポジションに応じてキングの要素が強くなったからといって、ナイトが死ぬわけではありません。むしろ、それまでに獲得し育ててきたさまざまな一面が、さまざまな場面で目を覚まし、表に出てくるのでしょう。私たちも、豊かな人間性を育んでナイスなシニアになれるように精進したいと思います。