『ワンド 10』は見るからにしんどそうな絵柄のカードです。男性と見られる人物が、自分の背丈よりも大きな棒をたくさん抱え、ひたすら前に向かって進んでいます。顔はうつむき加減で、おそらく何も見えていないでしょう。

私たちのようなクリエイティブ職の人間は、常に納期と戦っています。納期に追われ、追い掛け、追い越し、また追われ……締め切りに締め切りが重なり、どこかで遅れが発生すればその分また調整が掛かり(納期がずれるとは言っていない)、そうこうしているうちに別の締め切りが発生し……という永遠の戦いに身を投じています。
そんな風に暮らしていると、時折、さながらこの『ワンド 10』に描かれた人物のようになることがあります。たくさんのタスクにまみれ、「とにかくやらねば、やりきらねば」と躍起になるのです。疲労とストレスで効率が激落ちすることを恨みながら、体力と気力だけで乗り切ります。
『ワンド 10』は「本能・情熱・衝動」を示すワンドのスートですから、「体力と気力の限界を超える」というニュアンスがまさによく似合います。ただただひたすらやり続ける、身体がもつ限り作業し続ける……そんなクリエイターたちをたくさん見てきました。
歴戦の猛者たちになると、また話が変わってきます。猛者たちは体力こそ若者には劣りますが、代わりに「判断力(ソード)」「経験(ペンタクル)」、さらには「感情のコントロール術(カップ)」を身に着けています。要は、「身体が壊れてしまっては元も子もないし、若い頃と違って回復にめちゃくちゃ時間がかかるし、効率が落ちればリカバリーも利きにくいから、絶対に倒れたくない」という強い意志の下、「ここは後回しにしても大丈夫だろう」「これは頭を下げてでも他のメンバーにお願いしよう」「よく見たらこれ要らないじゃん、交渉しよう」というように、あれこれと策を練って調整する力を持っています。ベテランと呼ばれる人たちは皆、おそらく皆、ただひたすら体力と気力で修羅場を超えてきたあの頃に得た各スートの力で、長らく生き延びているはずです。
そして、ピュアに『ワンド 10』だった頃の記憶を持って、身体を鍛えはじめます。どんなに調整力を得ても、何故か修羅場はやってきます。きれいに進行していたはずの案件が急に荒れることだってあります。そんなときに戦いきるエネルギーがないのはかなりの痛手です。それに「もうトシだから体力がなくてさぁ」とか何とか言いながら「作りたい、作りきりたい、やりきりたい」という欲求に抗えないのもクリエイターの性質です。仕事以外にも作りたいものがたくさんある、休日も自分の創作に夢中になりたいのがクリエイターといういきものです。「仕事が忙しくて自分の創作ができていない」という状況はかなり危機的状況であり、最も避けなくてはならない事態とも言えます。
なので、身体を鍛えはじめます。私の観測範囲では、山に登る・ジムに通う・自転車に乗る人が多くいます。日々のデスクにかじりついている時間を取り返すかのように身体を動かします。衰えゆくワンドの性質を他のスートの性質で補うだけでなく、ワンドの性質を鍛えて保とうとするのです。
例にもれず、私も自転車に乗っています。タスクが立て込んで自転車に乗れなかった2週間を経た今、普通に後悔しています。身体が固まって痛いし重いし苦しいしで、何もいいことがありません。クリエイターは集中しはじめると永遠に集中していたい人間だと思いますが、それが仇となります。仕事が終わると身体も一緒に終わります。本当にダメです。
というわけで、久々に『ワンド 10』となっていた私も、いったん大きな棒たちを運び終えたので、しばしリフレッシュの時間を取ります。摩耗した諸々のスートの要素を回復させつつ、自転車に乗ってスッキリする予定です。皆さまも、追い詰められたあとほど、しっかり休んで運動して美味しいものを食べてくださいね。